最近になって国のプロジェクトで下水汚泥の肥料化やリン回収が活発になってきました
肥料の種類としてはかなり昔からある部類ですが、ほとんど一般の消費者の目には触れてこなかった部分もあります
今回はそんな下水汚泥肥料について書いていきます
1. 何で出来てるの?
下水汚泥肥料は微生物の死骸で出来ています
というのも、下水処理場(終末処理場)に流入してきたもの(生活排水やし尿、雨水など)を曝気処理して微生物に分解させたあとの死骸が主なものだからです
下水処理場では処理の際、空気を送り込むことで強制的に好気分解を促して微生物に有機物(水の中の汚れ)を食べさせる環境を作ります
そのため、微生物が増殖してその死骸が最終的に汚泥という泥のような形で排出されます
その泥を他の物と混ぜて発酵(堆肥化)させたものが下水汚泥肥料になります
2. 肥料としての特性は?
下水汚泥肥料についてはいくつかの種類があり、以下に編集した表を示します
肥料としては窒素を約3%、リン酸を約5%程度含んでいます
カリウムについてはいずれの種類でもほぼ含んでいません(...残念)
通常の堆肥のように1t/10aの施用をすればN:30kg、P:50kgほどが農地に入ることになるので多くの作物の窒素やリン酸の施肥量としては十分な量になります(通常の堆肥のように使用することは少ないと思いますが)
また、C/N比(土壌中での分解のしやすさ)が低いので土壌中での分解が速やかに行われて肥料成分の効果が出やすい肥料になります
(出典:汚泥肥料の種類と成分含有量の実態、水野・吉羽、2013)
3. 安全なの?
肥料の品質確保法(旧肥料取締法)で肥料の重金属について規制が掛かっています
また、原料となる汚泥については環境省の産業廃棄物の基準が適用されており、二重で有害物質の検査がされているので流通しているものは安全と言えます
仮に原料の段階で基準値を超過したものはリンのみを抽出して肥料化する方法もあり、下水汚泥の利用促進がなされています(B-DASH PJ)
ただし、連用による重金属の農地への蓄積や規制物質以外の農地への流入は今後の研究課題になると考えられます
また、一部の下水処理場では有機フッ素化合物(PFOS、PFOA)の混入が問題になっており、利用促進に向けての課題が浮き彫りになっています
各地の下水処理場や上水道での検出結果は自治体ごとに調査結果が公表されていますので利用に際しては参考にすると良いでしょう
4. どこで買えるの?
一般にはあまり販売されていません
かんとりースーパーという堆肥が汚泥を原料として使用している程度で一般的な市場流通には乗らないようです
おそらく終末処理場や下水処理場という公共の設備から出てくるものを原料としているため、リサイクルが第一目的、地域での配布や販売が主であり市場流通はしないものと推測されます
回収リン酸と鶏糞焼却灰を混ぜた化成肥料が販売されてます(肥料分を調整してるようであくまで化成肥料扱いのようですが)
肥料名はエコレクトG066もしくは岐阜の大地という名前で岐阜県内でのみの試験販売のようですが肥料の高騰対策にこういった肥料は増えてきそうですね
5. なんで今さら下水汚泥肥料なの?
国内の食料自給率は話題になることが多いですが、肥料自給率についてはあまり話題になりません
実は国内の化学肥料自給率はほぼ0パーセントで輸入に依存しています
(出典:食料生産を支える肥料原料の状況(農林水産省資料))
窒素、リン酸、カリウムが主要な成分ですがいずれも外的な要因(原油高、輸出入規制、外交問題)に価格や使用可能量が左右されます
そこで農林水産省は「みどりの食料戦略」の一環として国内の未利用バイオマスを用いて肥料自給率の向上を目指しているのです
実際は化成肥料の原料(リン鉱石やカリウム)の産出は国内では難しく、有機物から取り出す、もしくは有機物を肥料化して農地に還元するのが主になります
6. 下水汚泥肥料に望む今後
継続的な利用に伴う安全性の検証や高機能な下水汚泥肥料(例えば有用微生物を含む、植物の生理活性を底上げするような物質を含むなど)が出てくると利用促進や利用場面の幅が広がって面白いなと思います
皆さんのおうちの近くにも汚泥肥料を頒布している所があると思うので、試しに使ってみてはいかがでしょうか