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ジャガイモシロシストセンチュウってどうなったの?(23.08.31)

ここ5年で2種類の新しい植物寄生性線虫の侵入を許してしまった日本

 

侵入を許すと何が問題なのでしょうか?

何の作物に対する線虫が侵入したのでしょうか?

侵入した地域はその後どうなったのでしょうか?

 

今回はジャガイモシロシストセンチュウについての記事です

※ちなみに百姓貴族(7)(荒川弘)にもチラッとシストセンチュウの話題が出てました 笑

 

 

新しい植物寄生性線虫が侵入することの何が問題なのか?

問題としては登録されている農薬がなく、線虫抵抗性の品種も効果のない可能性が高いため、被害を受けてもすぐに対処する方法がないことです

そのため侵入してから気が付かずに時間がたってしまうと侵入地域が拡大・被害が生じ、産地崩壊に繋がる恐れがあります

 

何の作物に対する線虫が侵入したのか?

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引用:植物防疫法に基づくジャガイモシロシストセンチュウの防除対策の実施|農畜産業振興機構

 

名前の通り、ジャガイモの一大産地で問題になる線虫です

ただし、ジャガイモだけでなくナス科作物(トマト、ナス、ピーマンなど)に寄生します

特に被害が大きいのがジャガイモということです

この線虫が侵入する前はジャガイモシストセンチュウが問題になっていました 特に種芋の生産圃場で問題が大きいです

ジャガイモシストセンチュウについては国内流通で唯一検疫が設けられている線虫になります

何が問題かというと、一度侵入を許してしまうと長期間(5年以上)作物がなくても生存することや、ナス科の作物全般に寄生するためジャガイモ以外の産地にも被害が出る可能性があるほか、ジャガイモは全国的に生産されている作物なので全国の圃場にまん延することが想定されます

このため、国内ではジャガイモシストセンチュウに対して常時警戒態勢で対応していたところにジャガイモシロシストセンチュウまで侵入を許してしまったのです

専門家の間ではなかなかに大変な話でした 下手をしたらジャガイモ産地が壊滅する程のインパクトを持ちます

2015年に北海道への侵入が判明し、実際にどの程度広範囲に侵入が認められるかの調査が始まりました

その結果、163圃場・682haで侵入が確認されたのです

これは植物防疫が始まって以来、線虫に関しては初めてのことでした

農林水産省や国立研究機関の研究者は大忙しだったでしょう

専門の学会でもジャガイモシロシストセンチュウのテーマでシンポジウム・発表がいくつもありました

 

侵入した地域のその後

侵入した地域は北海道の網走市が主でした

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引用:植物防疫法に基づくジャガイモシロシストセンチュウの防除対策の実施|農畜産業振興機構

 

侵入が発覚してから約1年後、緊急防除(一時的な根絶に向けた措置)が始まりました

緊急防除の主なものは以下の通りです

・DD剤による土壌消毒

・対抗植物(本線虫に対して密度を低減できる植物)の栽培

・線虫発生圃場でのナス科作物の栽培・植物の地下部持ち出し、土壌が付着したものの移動制限

上記に示したように侵入した場所ではジャガイモ(やナス科作物)の栽培は禁止されます

 

なお、緊急防除は現在のところ令和8年まで実施される予定で、2015年に侵入から考えると実に10年以上の対策が必要になる一大事だったのです

現在も新たな発生圃場が見つかったり、発生した圃場での防除対策が終了して規制が解除されたりとジャガイモシロシストセンチュウとの攻防を繰り広げています

最も問題なのは侵入経路が分からないことであり、どこから持ち出されたものが畑に入ったのか分からないという点です

これ以上の拡散を防ぐためには、勝手に人の畑に入らないようにするのが一番です

皆さんも北海道に限らず、人の畑には勝手に入らないよう気を付けてください

 

これまでの経緯は以下の表のようになっており、防除区域の除外と新しい防除すべき区域の追加(赤字)の追いかけっこになっています

もはや歴史の年表のような状態に。。。

 

シロシストセンチュウの侵入に関する所感

最初に侵入の話から発生面積を聞いた時には「広範囲に広がってから判明したなぁ」と思っていました ただ、北海道では近縁のジャガイモシストセンチュウが発生しているため、見極めが難しかったのではないかと考えられます

被害形態も酷似するため、抵抗性品種を栽培して、「アレ?効かないな?」となってから判明していてもおかしくないので、対応が非常に難しい状況です

現在も発生した圃場の規制と緊急防除が完了した圃場の規制解除管理をしなくてはいけないので、対応されている研究者の方や地域の農業試験場の方などのご尽力は並大抵のことではないと思われます