農業LABブログ

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【解説】農業でもマイクロプラ問題は起こっている

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先日、肥料取締法の改正についての記事を書いた際に、一発肥料の話でマイクロプラに関する質問があったので記事を書きます

ppn-lab.hatenablog.com

 

 

 

一発肥料ってなんだ?

水稲を作られている方は特になじみ深いと思います

一発肥料とは速効性と緩効性の肥料をブレンドしたもので、一発入れれば追肥なしで収穫までいけるという肥料です

問題になるのは、緩効性肥料の部分で肥料分が溶け出てくる速度をプラスチックの被覆で調整しています

↓こういうやつですね

 

水田からマイクロプラが流出する

水田は川や海に直結していますから、一発肥料の中に含まれるプラスチック(主に緩効性肥料の被覆部分)は何らかの形で水田から河川や海に放出されていてもおかしくありません

 

この問題に初めに取り組んだのが、石川県立大学の勝見講師です

以下に示すデータはR2海洋プラスチックごみ学術シンポジウムの資料です

 

まず、海岸や扇状地の土の表面でマイクロプラスチックを採取できる数や時期に違いがあるか調査しています

↓のデータでは5-6月でマイクロプラスチックの採取量が多く、マイクロプラが見つかる時期が水田の準備~水の入れ替え期間と重なっていますので、水田からの流出の可能性が高いと考えました

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その後、実際の水田の調査でもマイクロプラの流出が起こっていることが分かりました

また、流出が多いタイミングとしては代かき(植え付け前の耕運)であることが分かっています

代かきで土を巻き上げるので、土壌中のマイクロプラが水に浮いて排水と一緒に流れ出るのはなんとなく、想像できますね

そのほかに落水(収穫のため田から水を抜くタイミング)や雨による水田からの越流時に被覆肥料のプラスチックが流出しています

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自治体や肥料メーカーの対応は?

一発肥料に関するマイクロプラに関するデータや注意喚起がされたこともあり、

地域によっては自治体が適切な使用を呼びかけているケースがあります

www.pref.yamagata.jp

 

 

また、肥料メーカーも自社製品の環境配慮は重要な要素ですから、生分解性プラスチックを用いた一発肥料も開発されてきています

ただし、生分解性プラスチックが作物に及ぼす影響というのは、あまり研究されておらず今後、データの蓄積が必要になります

central-green.jp

 

生分解性プラスチックの作物への影響は?

そんな中、千葉大学の犬伏教授による生分解性プラスチックの実験では以下のような結果が示されています(⇒部分は私見です)

参考文献:マイクロプラスチック化したポリ乳酸が土壌理化学性および生物性に及ぼす影響(犬伏ら, 2021)

 

・土壌窒素の取り込み/不動化/脱窒促進

⇒生分解プラを分解するために微生物が窒素を取り込んでしまい、植物への供給能力が低下、もしくは脱窒(空気中に窒素ガスとして放出)が促進されている

 

コマツナ発芽率の低下

⇒生分解プラの分解に伴い発芽抑制物質が出ている可能性

 

・生育量の低下

⇒発芽率低下と同様で生育抑制物質が出ているか、発芽の遅さが生育量まで影響している可能性

 

・pHの一時的な低下

⇒生分解プラの分解に伴い酸性物質が生成

 

以上のように、生分解プラの土壌中での分解は植物への生育に対して、少なからず影響がありそうということが分かってきています

分解されにくい(C/N比が高い)有機物を入れたときと同じような挙動を示しているようにも見えますね

 

おわりに

農業分野でも環境中へのプラスチック流出の発生源になり得ることが分かってきました

今後、製品の開発にも影響することでしょう

作物への生育影響を低減、もしくは作物の生育を促進するような資材開発がメーカーにとっては新しい分野を開拓するために必要になってきそうです